有閑多事 三蔵編 3





本日快晴。

だが 今日差し掛かった 峠の道は 最悪だった。

道幅はそれほど狭くないので ジープでも通行可能なのだが、

いかんせん 曲がりくねっている。

八戒が 気を使って運転してくれているが には 少々きつい道程だった。

リアシートの真ん中に 男2人に挟まれているは つかまる所がない。

悟浄と悟空にしがみつこうにも カーブのたびに あっちへこっちへと

振られてしまうので どこかにつかまろうと思っても 

それもままならない状態が続いた。

自然に気分も悪くなる。





そんなときに限って リアの悟浄と悟空がいつものように

言い争いを始めたものだから、の気分は いっきに最低に達した。

「あ〜ぁ 腹減ったなぁ〜。

ねえねえ  何か食べるもの持ってねぇ?」

「悟空 ごめんなさい。

昨夜は 野宿だったから 今日は何も持っていないのよ。

この峠が 終わったら 八戒に頼んでみましょう。だから 我慢してね。」

「またそれかよ、いい加減ほかの言葉を覚えたらどうだ?

それとも 猿の一つ覚えってかぁ・・・・・・。」

「猿って言うなって いつも言ってんだろぅ!

エロ河童の方が 猿、猿って 一つ覚えじゃんか!

そっちの方が いい加減に 他の言葉を覚えろよ!」

「エロ河童って言うな!

なんべん言ったら覚えんだ? この馬鹿猿が!」

「あぁ〜 また 馬鹿ってゆったなぁ、ゆるさねぇぞ!」

悟浄と悟空の2人が 勢いよく立ち上がって 喧嘩を始める。

は 両脇の支えが無くなって 前のシートにつかまりながら 

不安定に身体が揺れるのを何とかしようとしてみたが ダメだった。

「ちょっと・・・2人ともこんな山道走っているときに・・・・それは止めて!

私・・・・つかまるとこ無いから 不安定なの・・・・・・お願い・・・・ちゃんと座っていて!」

気持ち悪いのを こらえて出した声は 途切れ途切れになった。

八戒と三蔵は その声を 何とか拾うことが出来たが、

悟浄と悟空の怒鳴りあいに かき消されて 肝心の2人の耳には届かない。




その時。

急カーブに差し掛かったジープが 傾かんばかりにカーブを曲がった。

悟浄と悟空は 身体のすばやい反応で それにすぐに対応して事なきを得たが、

車に酔って気分が悪かったは それに対応できずに 悟空側に身体を投げ出されて

ドアに頭をぶつけて 気を失ってしまった。

「八戒 ジープを止めて!」

悟空の叫び声に 八戒が 急ブレーキをかけて ジープを止めた。

ジープを止めた八戒と 悟空の声にナビシートから振り返った三蔵が見たのは

青ざめた顔をして 気を失っているだった。

!大丈夫か?」

悟空の呼びかけに はピクリとも動かない。




バッシ〜ン! バッシ〜ン!

青空にハリセンの音が 2回響き渡った。

「てめぇら 本当に殺されてぇか!

が てめぇらを止めたのを聞かねぇから こういう事になるんだ。

悟浄 降りて俺と代われ。」

いつもは のことで三蔵が何かを言ったり 行動を起こせば からかうことを

忘れない悟浄なのだが、この時は さすがに無言のまま 三蔵に席を譲った。

気を失って 倒れたままのを まるで壊れものを扱うように 

そっと優しく抱き上げると、三蔵は そのままリアシートに座った。

その様子を 3人はただ見守っている。

自分たちの前では 決してに旅の仲間以上の態度を 示す事はしない三蔵が、

その己の戒律を破ってまで をいたわる姿を さらしたのだ。




それは 普段の三蔵を 知っている3人に 衝撃を与えるのに充分だった。

八戒も悟浄も悟空も 三蔵がを愛している事は知っていた。

だが 自分たちの想像する三蔵は もっとに対して 

厳しい愛し方をしていると思っていた。

いくら三蔵が を愛していたとしても 戒律の厳しい寺で 

光明三蔵という男親のみで育ったのだ 

そこには愛情表現に限界があるだろうと・・・・、

だが 三蔵がこれほどに 男としてを愛し 表現出来るとは思わなかった。

右腕でを抱え込み その身体を自分に寄せると 左手の指先で青白くなっている

頬をそっと優しく撫でる。

顔にかかった髪を払い終わると、「。」と呼びかけた。

三蔵の声に の瞼が ピクッと反応を見せた。

 大丈夫か?」今度の声に 意識が浮かび上がったのだろう。

は ようやく 瞼を上げて 目の前の三蔵を見ている。





「私 どうしたの?」

「ドアにぶつかって 意識が飛んでたんだ。

まあ 軽い脳震盪だろうが 大丈夫か?」

は 定まらない視線で ジープの中の悟浄・八戒・悟空の顔を 見渡した。

 ごめんな。

俺達が 気をつけていれば こんなことにはならなかったんだ。」

悟空は これでもかというほど 力のない声で 子供のように謝った。

「俺もワリィ。つい悟空と 始めちゃって・・・・。」

悟浄も笑顔も浮かべずに 謝ってくる。

それに 薄い笑顔で は答えると、

「みんなは 無事なのね。

ごめんなさい また 迷惑を掛けてしまって・・・・・心配させてばかりね。」

情けなさそうな 気弱い声で そうつぶやく。

のそのいつもの態度に ジープの中の男達は ほっと安堵の息をついた。

「いつも言うだろう、心配はするが 迷惑じゃねぇと 

なんべん言ってやりゃ は納得するんだ?いい加減にしろよ!」

三蔵の怒鳴り声が 響いたのか はギュッと辛そうな顔をした。

「三蔵 頭をぶつけてますから 大きい声は ダメですよ。」

それを見た八戒が 三蔵をたしなめる。

 三蔵が言ったとおり 軽い脳震盪だとは 思いますが、

今日は 宿に着いたら 安静にしていてくださいね。

これから もし お客さんが来ても 戦闘には参加しないで 

リムと一緒に非難していてください。

いいですね。」

八戒にそう釘を刺されて は 神妙に頷いた。




「八戒 ジープを出せ。」

八戒は 三蔵に頷いて ジープを発進させた。

だが 三蔵は の身体を 離さずに抱えたままだった。

 俺につかまってろ。」

にだけ聞こえるように 耳元で三蔵が囁く。

「俺だけの力じゃ 身体が揺れてつれぇだろう。

気持ちがわりぃのも 少しはましになる。」

見ていないようで ちゃんと見ていてくれるそんな三蔵に 

はそっと手を回して つかまった。







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峰倉様 リクエストで 「甘い三蔵」でした。
私なりに甘い三蔵です。
BBSにてお受けしたものです。ありがとうございました。